循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
8 肥満低換気症候群(Pickwickian症候群)
(表5)
1956年Burwellらによって提唱されたPickwickian症候群とは,肥満,傾眠,痙攣,チアノーゼ,周期性呼吸,多血症,右室肥大,右心不全の8 徴候を有する疾患を指す.Pickwickian症候群の臨床像が,Charles Dickensの小説“Pickwick Club”のJoe少年に酷似していることから,この名が付けられた.肥満低換気症候群(obesity hypoventilation syndrome:OHS)はOSAの重症型と考えられており,Pickwickian症候群と同様に扱われ,欧米を含めた一般的な考え方ではBMI が30 kg/m2 以上,PaCO2が45 mmHg以上で,かつガス交換障害が高度のため低酸素血症を伴う肺胞低換気があり,睡眠呼吸障害があればOHSと考えられている.肺胞低換気を示す重症慢性閉塞性肺疾患(COPD),胸郭拘束性肺疾患,神経筋疾患との鑑別は重要である.OHSは循環器系の合併症を惹起しやすく,通常のOSAより予後不良である.治療には,減量と同時に睡眠呼吸障害に関してはCPAPが第一選択である(クラスⅠ,レベルA).しかし,通常のOSA患者に比し,高圧のCPAPが必要なことが多く, その不快感のため治療の継続が難しかったり,CPAPだけでは睡眠中の酸素飽和度の低下を防止できない場合があり,bi-level PAPによる治療が必要となることもある(クラスⅡb,レベルC).重症例では気管切開が検討されることもある(クラスⅡb,レベルC).
なお,本疾患については厚生労働省特定疾患の対象疾患に指定されており,調査研究が行われている.
表5 肥満低換気症候群(Pickwickian症候群)の治療
クラスⅠ
◦減量(エビデンスレベルA)
◦CPAP(エビデンスレベルA)
クラスⅡa
なし
クラスⅡb
◦CPAPだけでは睡眠中の酸素飽和度の低下を防止でき
ない場合のbi-level PAP(エビデンスレベルC)
◦重症例に対する気管切開(エビデンスレベルC)
クラスⅢ
なし