循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
4 複合型睡眠時無呼吸症候群(CompSAS)
 複合性睡眠時無呼吸症候群(complex sleep apnea syndrome:CompSAS)は,閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が主体と診断された患者の治療時に,有意の中枢性睡眠時無呼吸(CSA) が生じてくる現象を指している.CPAPタイトレーション時や耳鼻科的手術治療後にこうした現象が生じることは経験的に知られていたが,Morgenthalerらは,CompSASを,CPAPタイトレーションが閉塞型無呼吸低呼吸のイベントを消失させた後に中枢性無呼吸指数(CAI)が5以上残存するか,チェーン・ストークス呼吸が出現して呼吸が分断されるもの,と初めて定義した.諸外国での検討では,その頻度はOSAS患者の15~ 25%に上ると報告されたが,その後に行われた我が国における2つの調査では,4,582症例のCPAPタイトレーション時に194名(4.2%)の発生,また1,312例のCPAPタイトレーション時に66例(5.0%)の発生が報告される程度であり,少なくとも諸外国からの報告に比較して少ない現象であることが判明している.

 CompSASが発生する機序は現時点では明らかにされていないが,CompSAS患者をCPAP開始後数か月で再検すると,多くの患者でCSAが軽減または消失する点から,CPAP開始に伴う急激な肺の伸展に対する神経反射による中枢性の呼吸抑制が一因である可能性が挙げられている.また,心不全などによって呼吸が不安定となり,元来CSA(チェーン・ストークス呼吸)を生じやすい状態の患者にOSAが合併している際に,OSAを治療するためのCPAP治療を行うことによりCSAが表面化し,CompSASという状況が生じる可能性も推定されている.

 治療としては,多くの症例でCPAPのみの治療により,数か月の間にCSAが消失していることから,患者がCPAP治療を継続できるのであれば,経過を観察することは有効と考えられる.CompSASでは元来のOSAとCPAP治療後に発生したCSAが問題となっているため,これら双方の加療が可能なASVによる治療成績が最も優れている.

 以上のように,bi-level PAP機器やASV機器はOSAとCSA両者の睡眠呼吸障害をほぼ完全に治療できるのはわかっているものの,我が国の保険医療体系ではこれらの機器はCPAPと比較して,極めて高額であることを考えると,まずCPAP治療を行った後に残存するCSAがある患者に対してのみ,こうした機器を使用していくことが妥当であると考えられる.
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