循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
症状・徴候発現頻度(%)
いびき93
無呼吸の指摘92
夜間体動異常54
日中の過剰傾眠83
熟睡感の欠如51
全身倦怠感51
夜間頻尿40
夜間呼吸困難感38
起床時の頭痛35
夜間覚醒35
集中力低下28
不眠19
うつ,性機能障害,胃食道逆流症記載なし
1)軟部組織の因子
◦肥満による上気道軟部組織への脂肪沈着
◦扁桃肥大
◦巨舌
◦上気道の炎症(アレルギー性鼻炎,慢性副鼻腔炎,咽
頭炎など)
2)頭蓋顔面骨の因子
◦上顎骨の後方偏位
◦下顎骨後方偏位
◦下顎骨の未発達,小顎症
3)本位の因子
◦仰臥位
◦頸部の屈曲
◦肺気量の変化
◦循環血液量の変化
3 欧米,日本でのそれぞれの基準
(表10~12,図5,6)
① OSAS とSDB の診断・治療指針

 表10は,成人のOSASに関するICSD-2 の診断基準を示す.我が国でも,2005年に5つの関連学会の後援を得て睡眠呼吸障害研究会から,一般臨床医向けのOSAS診療に関するガイドライン「成人の睡眠時無呼吸症候群診断と治療のためのガイドライン」が作成されている.他に耳鼻科医向けの「睡眠呼吸障害(いびきと睡眠時無呼吸症候群)診療の手引き」,保険歯科研究会協力編の「睡眠時無呼吸症候群の歯科保険診療」などがあるが,まだ小児および高齢者向けのものはない.日本循環器学会では,循環器の診断に関する肺高血圧症治療ガイドライン,また,慢性心不全治療ガイドラインにおいて,SASとSDBについて述べられてきた.一方,中枢性SAS(central SAS:CSAS)は慢性心不全で高率に合併するため,チェーン・ストークス呼吸(Cheyne-Stokes respiration:CSR)を伴った場合には,2004年に在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT),2007年にはサーボ制御圧感知型人工呼吸器(adaptive servo-ventilation:ASV)が使用可能となった.しかし,OSAS以外のSDBの病態は非常に複雑であるため,SDBの診察では内科(循環器,呼吸器,内分泌・代謝・糖尿病,神経など),耳鼻咽喉科,歯科・口腔外科,ならびに精神科と多くの科の医師・歯科医師との協力(科・科連携)が必要であり,地域医療連携を含めた総合的なガイドラインが作成されている.
表10  成人の閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)に関するICSD-2診断基準
表11  成人の中枢性睡眠時無呼吸(Central Sleep Apnea:CSA)の診断基準
表12  チェーンストークス呼吸パターン(Cheyne-Stokes breathing Pattern:CSR)の診断基準
図5 いびきなどの症状のある循環器疾患患者での睡眠呼吸障害(SDB)診断アルゴリズム
図6 いびきなどの症状のない循環器疾患患者での睡眠呼吸障害(SDB)診断アルゴリズム
注)上記の診断基準は,ICSD-2 による.
AとBとD,またはCとDで基準が満たされる
A.以下のうち少なくとも1つ以上が該当する
ⅰ.患者が,覚醒中に不意に眠り込むこと,日中の眠気,
爽快感のない睡眠,疲労感,または不眠を訴える
ⅱ.患者が,呼吸停止,喘ぎ,または窒息感で覚醒する.
ⅲ.ベッドパートナーが,患者の睡眠中の大きないびき,
呼吸中断,またはその両方を報告する
B.PSG記録で以下のものが認められる
ⅰ.睡眠1時間当たり5回以上の呼吸イベント(無呼吸,
低呼吸, または呼吸努力関連覚醒respiratory effortrelated
arousal:RERA)
ⅱ.各呼吸イベントのすべて,または一部における呼吸努
力のエビデンス(RERAは,食道内圧測定で認めるの
が最も好ましい)
または
C.PSG記録で以下のものが認められる
ⅰ.睡眠1時間当たり15回以上の呼吸イベント(無呼吸,
低呼吸,またはRERA)
ⅱ.各呼吸イベントのすべて,または一部における呼吸努
力のエビデンス(RERAは,食道内圧測定で認めるの
が最も好ましい)
D.異常が,他の現行の睡眠障害,身体疾患や神経疾患,薬物,
または他の物質使用で説明できない.
※ なお, 循環器疾患のSDBではOSAS以外に, 特異的に
CSAS,CSR,ならびにComplex SAS(複合性SAS:後記
参照)の合併が高頻度であるため,表3,4には成人の
CSASとCSRに関するICSD-2の診断基準を示す
周囲からの強いいびきや無呼吸の指摘
AHI<5
(-) (+)
SDB がないか軽症その他の睡眠障害の項目へSHVS などOSAS CSAS Cheyne-Stokes 呼吸
AHI≧5
SDB 随伴症状:EDS もしくは,睡眠中の窒息感やあえぎ,繰り返す覚醒,起床時の爽快感欠如,
日中の疲労感,集中力欠如のうち2 つ以上を認める
AHI または3%ODI が5 未満
かつESS<11
SOREMp,PLMS,RWA,PBD など
その他の睡眠障害
SpO2<90%が
5 分以上持続
漸増漸減呼吸パター
ンが10 分以上持続
閉塞性が
50%以上
中枢性が
50%以上
AHI または3%ODI が5 未満だが
SpO2<90%が5 分以上持続
AHI または3%ODI が5 以上
またはESS≧11
経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)測定装置または簡易無呼吸診断装置による検査とEpworth sleepiness scale(ESS)終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
AHI<5
(-) (+)
SDB がないか軽症その他の睡眠障害の項目へSHVS などOSA CSA Cheyne-Stokes 呼吸
AHI≧5
治療抵抗性の高血圧,早朝高血圧,慢性心不全,心房細動,脳血管障害,腎不全など,睡眠呼吸障害の合併が強く疑われる患者
AHI または3%ODI が5 未満
かつESS<11
SOREMp,PLMS,RWA,PBD など
その他の睡眠障害
SpO2<90%が
5 分以上持続
漸増漸減呼吸パター
ンが10 分以上持続
閉塞性が
50%以上
中枢性が
50%以上
AHI または3%ODI が5 未満だが
SpO2<90%が5 分以上持続
AHI または3%ODI が5 以上
15 未満およびESS<11
AHI または3%ODI が15 以上
またはESS≧11
経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)測定装置または簡易無呼吸診断装置による検査とEpworth sleepiness scale(ESS)終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
A.患者が以下の少なくとも1つを報告する
ⅰ.日中の強い眠気
ⅱ.睡眠中の頻回の中途覚醒・完全覚醒・または不眠の訴

ⅲ.呼吸困難による完全覚醒
B.睡眠ポリグラフ検査で睡眠1時間につき5回以上中枢性無
呼吸が確認される
C.障害が,他の現行の睡眠障害,身体疾患や神経疾患,薬剤,
または他の物質使用で説明できない
A.睡眠ポリグラフ検査で,睡眠1時間当たり少なくとも10
回以上中枢性無呼吸と低呼吸が認められ,その際,低呼
吸の1回換気量は漸増漸減パターンをとり,睡眠からの
頻回な覚醒と睡眠構築の乱れが随伴する
  (注:この診断をするのに症状は必須ではないが,患者が,
日中の強い眠気,睡眠中頻回の覚醒・完全覚醒,不眠の
訴え,または呼吸困難による覚醒を訴えることは多い)
B.心不全,脳卒中,腎疾患など重傷度の高い身体疾患に随
伴して呼吸障害が生じる
C.障害が,他の現行の睡眠障害,身体疾患や神経疾患,薬剤,
または他の物質使用で説明できない
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表3 上気道閉塞を来たす形態学的因子
表4 自覚症状・他覚徴候