循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
上気道の閉塞(①)が生じると,吸気時の呼吸筋運動(②)
により,全身からの静脈還流が増加(③)する結果,心室中隔
は左心室の方向に張り出す(④).また,左心室に対する外部
からの陰圧は(⑤),収縮に対する障害(後負荷の増大)となり,
心機能が低下する.
3 血行動態への影響
OSAが心血管系に与える影響は,胸腔内が繰り返し高度の陰圧・低酸素状態・高二酸化炭素状態になること,これらの結果,交感神経活動の活性が短期的・長期的に亢進すること,また低酸素のために生じる液性因子や血管内皮の変化などが重なって生じると考えられている.
高度なOSAでは胸腔内に-50 mmHg以上の陰圧が一晩中繰り返して生じているが,これは心臓全体に対して外部から間欠的な吸引を行うことと同様の作用をもたらしており(transmural pressureの上昇),心室収縮に対して逆方向の力を作用させることで後負荷の上昇と同様の作用を及ぼし,直接的に心収縮に悪影響を与えていることになる.一方,胸腔内が陰圧になると静脈還流が急速に増加し,右心系の容積が急激に増大する.その結果,心室中隔が左室側に変位するため,左室の収縮・拡張が妨げられ,左心機能が一過性に低下する(図2).上記の結果,特に不全心では心拍出量の低下はさらに大きくなる上に,心拍出量や血圧の回復が遅延することが知られており,心不全患者にOSAが合併していると夜間の無呼吸時に心機能がさらなる悪化を来たしているものと考えられる.また,低酸素状態は肺動脈圧の上昇を招き,短期的・中期的に右心機能を悪化させる原因となる.
図2 閉塞時睡眠時無呼吸の血行動態への影響