循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
2 頻脈性不整脈
① 心房細動(表33)

 SDBの3%に心房細動の合併を認め1,重症SDB(AHI≧ 30)では約5%で心房細動を合併し対照群の0.9%に比して有意に多く,交絡因子補正後のオッズ比は4.02であった.心不全症例においても中等度SDB(AHI ≧15)の22%に心房細動の合併がみられ,対照群の5%に比して有意に多く,オッズ比は5.34であり,横断研究からSDBと心房細動の強い関連性が示唆されている.前向き試験による検討では,65歳未満の閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)群は心房細動の新規発症が多く(ハザード比2.18),肥満とdesaturationは独立した危険因子であった.また,除細動後の心房細動再発については未治療OSAでは12か月後の再発率がCPAP治療群の2倍で,再発群では夜間のdesaturationが顕著であったことから,心房細動と低酸素血症との関連性も示唆されている.さらに経皮的肺静脈隔離術後の心房細動再発についても,OSAの関与が指摘されている.逆に心房細動は高率にOSAの合併を認め,OSAの独立した因子であり,心不全患者における心房細動は中枢性睡眠時無呼吸症(central sleep apnea:CSA)の独立した危険因子であることも報告されている.概してSDBは心房細動の発症に関与しているとされ,心房細動自体もSDBに対する独立した因子であることから,SDBと心房細動は関連性のある疾患と考えられる.

 機序についてはOSAによる低酸素,メカニカルストレス,炎症,自律神経障害や拡張障害が心筋に対して機能的・器質的な修飾を加え,左房の電気的リモデリング,線維化や拡大を促し心房細動を誘導すると考えられている.心房細動とSDBのそれぞれの危険因子は重複しているが,心房細動に対してOSAは年齢,性別,高血圧,虚血性心疾患,心不全や肥満などの危険因子とは独立していることが示されている.また,CSAは心房細動を高率に合併し,心不全における心房細動はCSAの独立因子であることから,心房細動による心拍出量の低下,肺動脈楔入圧上昇などの血行動態の増悪がCSAの誘因となっているものと推測される.

 SDB治療による心房細動抑制効果については,就寝中の発作性心房細動8 例に対し気管切開を施行し,3~6か月後に心房細動が消失した報告もある. また,CPAP治療による心房細動除細動後1年間の再発率の検討では,非CPAP治療群の82%に比し,CPAP治療群では42%と有意に少なく,洞調律維持に関する有用性が示されている(クラスⅡ a,エビデンスレベルC).

② 心室性不整脈(表34)

 SDBにおける心室性不整脈は夜間就寝中に心室期外収縮(premature ventricular contraction:PVC)が20%,非持続性心室頻拍(non-sustained ventricular tachycardia:nsVT)は3%に認められ,重症SAS(AHI ≧ 30)において対照群と比しPVCでは2倍,nsVTでは4 倍のリスクであった.収縮障害心不全においてもSDBと心室性不整脈との合併は多く認められている.

 SDBの催不整脈性についての前向き研究はいくつかあり,MADITⅡ試験のサブ解析では,肥満が植込み型除細動器(implantable cardiac defibrillator:ICD)適切作動と突然死の複合エンドポイントに対する独立した危険因子であったため,肥満と強く関連するSDBが致死性不整脈の発生に寄与している可能性が示唆された.収縮障害を合併したICD植込み後の患者でSDB群は非SDB群に比してICD適切作動率が有意に高く,SDBはICD適切作動に関する独立した危険因子であった.また,日内変動について非SDB群は午前中に作動が多いのに対して,SDB群では夜間に多く認められた.心室性不整脈に関しては基礎心疾患や心不全の状態,薬物治療状況に影響され,SDBの関与が相対的に小さくなる可能性もあり否定的な報告もみられるが,その発生頻度はSDBの重症度と相関し,酸素飽和度60%以下で多く,desaturationやAHI との相関も報告されている.また,SDBを合併した心不全症例では心室性不整脈は日中より夜間に多く,呼吸周期による検討では,心室性不整脈の出現頻度は正常呼吸期より無呼吸期に有意に多いことや,心室性不整脈発生のタイミングがOSAでは無呼吸時,CSAでは過呼吸時に認められるとの報告からも,心室性不整脈に対するSDBの関与が強く示唆されている.また,SDBは心筋の再分極相にも影響を与えることが指摘されており,SDBの重症度とQT dispersionが正相関を示し,SDB治療により改善するとの報告もあり,SDBはVTの発生の閾値を低下させる1つの要因と考えられる.さらに,SDBに対する治療により心室性不整脈の減少・消失が認められることからも,両者の関連性は支持されている.

 SDB治療による心室性不整脈に対する抗不整脈効果に関しては,気管切開によりPVC/VTが減少・消失すると報告され,うっ血性心不全に対する酸素療法においても,左室駆出率,BNPが高く,PVCやAHI が多い症例においてPVCの減少効果があると報告されている(クラスⅡ a,エビデンスレベルC).CPAP治療に関しても,心不全を合併したSDBに対するCPAP responder群においてPVCの減少が報告されている.少数例の無作為比較試験ではあるが,収縮障害を有するOSA合併心不全に対するCPAP治療の効果の検討では,1 か月後に尿中ノルエピネフリン濃度低下,左室駆出率の改善とともにPVCの58%減少を認めており,CPAP治療による交感神経抑制やreverse remodelingを介した抗不整脈効果が示されている(クラスⅡ a,エビデンスレベルB).
表33 睡眠呼吸障害を合併した心房細動に対する治療
表34 睡眠呼吸障害を合併した心室性不整脈に対する治療
クラスⅠ
◦心房細動のガイドラインに準拠した治療(エビデンス
レベルC)
クラスⅡa
◦洞調律維持を目的としたCPAP(エビデンスレベルC)
クラスⅡb
 なし
クラスⅢ
 なし
クラスⅠ
◦心室性不整脈のガイドラインに準拠した治療(エビデ
ンスレベルC)
クラスⅡa
◦心室期外収縮の抑制を目的としたCPAP(エビデンス
レベルB)
◦心室期外収縮の抑制を目的とした酸素療法(エビデン
スレベルC)
クラスⅡb
 なし
クラスⅢ
 なし
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