循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
5 持続気道陽圧(CPAP),その他の陽圧治療
(表17)
 OSAに対する鼻マスクを用いたCPAP療法は,睡眠中に上気道を陽圧状態に保つことで,閉塞起点となる上気道軟部組織を押し上げ,気道の開存が維持され,OSAの発症を予防する.このような直接的な効果に加え,PEEP効果による肺容量の増加が上気道の開大につながることも報告されている.

 OSA患者に対するCPAP療法には,心拍変動解析でのLF/HF,筋交感神経活性,血漿,尿中ノルアドレナリン濃度の各指標における交感神経活性の抑制作用,血清TNF- α濃度,血清IL-6濃度および血清CRP値などの炎症マーカーの低下作用,血管内皮機能改善作用,降圧作用,左室拡張能改善作用,内臓脂肪および血清レプチン濃度低下作用,血小板活性化および血小板凝集の抑制作用,血漿フィブリノーゲン濃度の低下および第Ⅶ因子凝固活性の改善などが報告されている. これらより,CPAP療法には,OSA患者への心血管イベント抑制効果および生命予後改善効果が期待できる.

 OSAに何らかの介入を行った群と比較して,未治療群の生命予後が有意に不良であったとする観察研究や,CPAP療法により心血管死亡および心血管イベントが抑制されたとする前向き観察研究があるが,CPAP療法の予後への効果を検討するための無作為化対照試験は行われていない.

 CPAP療法は対症療法であり,治療継続が重要となるが,治療継続率は65~ 90%とその低忍容性が問題である.また,治療アドヒアランスがOSA患者の生命予後に影響する可能性も示唆されており,マスクやCPAPの設定変更,加湿器の併用など,治療アドヒアランスの向上に積極的に努める必要がある.

 我が国でのCPAP療法の保険適用は,自覚症状を認め,かつ,PSGにてAHI ≧ 20もしくは簡易モニターにてAHI ≧ 40を認めた場合となっているが,臨床上の治療導入の判断は,AHI のみで行うべきでなく,自覚症状およびその他の併存疾患(高血圧,心不全,虚血性心疾患,脳血管障害など)の有無などを含めて総合的に行うべきである.最近,報告された一般住民を対象とした前向きコホート研究(平均観察期間13.4年)では,非OSA例と比較して,AHI ≧ 15で有意にall-cause mortalityが悪化することが示されており,AHI ≧ 15で積極的な治療の適応となるべきである.さらに,同様の前向きコホートであるWisconsin Sleep Cohortの平均13.8年間の追跡調査では,眠気の有無にかかわらずAHI ≧ 30では非OSA例と比較してall-cause mortalityが悪化することが示されており,AHI ≧ 30に対しては,自覚症状の有無にかかわらず治療行うべきである.
表17 OSAに対するCPAP療法
注)CPAPの導入にあたっては,その保険適用を考慮する.
クラスⅠ
◦AHI≧30で心血管イベントに対する一次予防目的とし
て(エビデンスレベルB)
◦AHI≧15で基礎疾患(高血圧,耐糖能異常,心不全,
虚血性心疾患,脳血管障害など)を有する場合の基礎
疾患進展抑制もしくは二次予防目的として(エビデン
スレベルB)
◦AHI≧15で自覚症状を有する場合,自覚症状改善目的
としてのCPAP(エビデンスレベルA)
クラスⅡa
◦15≦AHI<30で心血管イベントに対する一次予防目
的として(エビデンスレベルB)
◦5≦AHI<15で自覚症状を有する場合,自覚症状改善
目的としてのCPAP(エビデンスレベルA)
クラスⅡb
◦5≦AHI<15で,特に基礎疾患が存在せず,自覚症状
が乏しい場合(エビデンスレベルB)
クラスⅢ
 なし
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