循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
1 薬物療法
(表20)
 左室収縮障害による慢性心不全に合併する中枢性睡眠時無呼吸に対して,これまでいくつかの薬物療法の有効性が検討されてきた.慢性心不全の標準治療薬として確立されているACE阻害薬であるカプトプリルにより,慢性心不全患者のAHI が減少することが報告されている.利尿薬は,肺うっ血の改善により慢性心不全患者の中枢性睡眠時無呼吸を減少させうるが,時に代謝性アルカローシスをもたらし,二酸化炭素・換気応答を右にシフトさせ,PaCO2の無呼吸閾値の上昇をもたらし,中枢性睡眠時無呼吸を悪化させることがあるので注意が必要である.慢性心不全の標準治療薬であるβ遮断薬(カルベジロール)が慢性心不全に合併する中枢性睡眠時無呼吸患者のAHI を有意に減少させ,その効果は用量依存性の可能性があることが報告されている.機序としては中枢性化学受容体の二酸化炭素に対する感受性の亢進の抑制や心不全の重症度の改善による二次的なものなどが推察されている.

 無作為二重盲検臨床研究により,テオフィリン(医療保険適用なし)の短期投与が中枢性睡眠時無呼吸を合併した慢性心不全患者のAHI を有意に減少させたことが報告されている.しかしながら,テオフィリンは催不整脈作用を有するため,その長期使用の有効性は確立されておらず,また一般に強心作用を有する薬剤の長期投与は心不全の予後を悪化させる懸念がある.

 無作為二重盲検臨床研究により,炭酸脱水素酵素阻害薬であるアセタゾラミド(医療保険適用あり)がAHIを有意に減少させたことが報告されており,機序としては,重炭酸イオンの尿中排泄によりもたらされる代謝性アシドーシスが二酸化炭素・換気応答を左にシフトさせPaCO2の無呼吸閾値を低下させることや,利尿効果による肺うっ血の改善などが推察される.我が国では,アセタゾラミドは睡眠時無呼吸症候群に医療保険適用がある.しかしながら,慢性心不全に合併する中枢性睡眠時無呼吸に対するアセタゾラミドの長期使用の有効性は確立されていない.
表20 中枢性睡眠時無呼吸の薬物療法
クラスⅠ
◦心不全に合併する場合,ガイドラインに基づいた慢性
心不全に対する最適な薬物療法(エビデンスレベルC)
クラスⅡa
なし
クラスⅡb
◦CSA自体の軽減を目的としたβ遮断薬(カルベジロー
ル)(エビデンスレベルB)
◦アセタゾラミド,テオフィリン(エビデンスレベルB)
クラスⅢ
なし
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