循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
交感神経系亢進
 心不全
肺うっ血
低酸素血症
循環時間遅延
覚醒時喚起応答亢進
睡眠時呼吸障害
Cheyne Stokes 呼吸
 Quality of Sleep
CO2 化学受容野感受性亢進
夜間酸素療法化学受容体→PCO2
4 夜間在宅酸素療法(HOT)
(表22)
① CSA に対するHOT の機序

 夜間酸素療法はPO2 を高値に保つことにより,低酸素血症の改善を介して交感神経亢進を抑制し,遅延と換気-PCO2 関係のフィードバック機構を安定化させ,CSAを改善する(図8)

 CSR-CSAを伴う心不全患者に対して夜間在宅酸素療法(HOT)を行うことにより,睡眠の質の向上(総睡眠時間増加,無呼吸頻度および夜間覚醒頻度の減少)が得られること,Cheyne-Stokes呼吸の減少のみならず,交感神経系亢進の是正,さらに運動耐容能の改善が得られることなどが報告されている.一方,我が国の多施設共同臨床試験(chronic heart failure-nocturnal home oxygen therapy:CHF-HOT)ではQOLの改善とLVEFの上昇が得られること,さらにサブ解析により,HOT導入後には導入前に比べ心不全増悪による入院頻度や救急外来受診回数が減少したことも報告されている.このCHF-HOT試験の成績を基に,我が国では世界に先駆けてCSA合併慢性心不全症例に対する夜間HOTが保険診療として認可され(2004年4月),心不全診療に導入されている.さらに,その後1年間のCHF-HOT多施設長期臨床試験が実施され,夜間HOT群では対象群に比べ,身体活動スケールの改善やLVEFの改善が長期的に持続することが確認された.しかし,先のサブ解析で示された入院頻度の減少や心イベント減少を証明するには至らなかった.

② CSA に対するHOT の適応

 慢性心不全における夜間在宅酸素療法の保険適用は,NYHAⅢ度以上でAHI が20/hr以上のCSAとされる.この適応基準は,CHF-HOT多施設臨床試験における対象基準(NYHAⅡ~Ⅲ度でAHI ≧ 5/hr,LVEF≦ 45%)に比較すると,より重症な症例が適応とされる.今後,適応を改定することについても検討してよいと考えられる.
表22 CSA に対する夜間在宅酸素療法(HOT)
クラスⅠ
 なし
クラスⅡa
1)NYHAⅢ度以上でAHIが20/hr以上のCSAに対し
◦AHIの低下と睡眠の質の向上を目的として(エビデン
スレベルA)
◦運動耐容能,身体活動スケールの改善を目的として(エ
ビデンスレベルA)
◦心機能の改善を目的として(エビデンスレベルA)
クラスⅡb
◦NYHAⅢ度以上でAHIが20/hr以上のCSAに対し予後
の改善を目的として(エビデンスレベルB)
クラスⅢ
 なし
図8 CSAの機序と夜間酸素療法の効果
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