循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)
【ダイジェスト版】
6 その他の陽圧治療
(表24,25)
心不全症例のCSAにおけるAHI の改善に関して,より効果的である陽圧治療(bi-level positive airway pressure:bi-level PAPおよびadaptive servo-ventilation:ASV)に焦点が当てられている.
Bi-level PAPに関しては,CPAP同様に鼻マスクを装着して行う治療方法であり,CPAPとは,吸気時・呼気時の圧が変わり陽圧が2 層性である点,自発呼吸が消失してもバックアップ換気が行われるという点で異なる.このバックアップ機構を有するbi-level PAPに関しては,CSA自体の治療としての有用性(クラスⅡa,エビデンスレベルA)のみならず,心機能の改善に対しての有用性についても前向きの無作為化試験を含むいくつかの小規模の研究結果が報告されている(クラスⅡ a,エビデンスレベルB).CPAPとの比較に関しては,CSAに対してはより効果的であると報告されており(クラスⅡ a,エビデンスレベルB),特にCPAPに忍容性がない場合などで有用性が高いと考えられるが(クラスⅠ,エビデンスレベルB),心機能に関して直接比較をしたデータはない.
さらに最近では,このようなbi-level PAPを発展させ,そのときの呼吸状態に合わせて呼吸補助の程度を変化させ,過呼吸と無呼吸を繰り返す心不全のCSAにより適合した新しいデバイスであるASVの効果が報告されている.ASVは,AHI の改善に対してはクロスオーバー試験の結果,CPAP,bi-level PAPよりもさらに効果的であり,CPAPやbi-level PAPの継続が困難な症例や治療不十分な症例でも効果的であった(クラスⅠ,エビデンスレベルA).Sham ASVと有効な治療設定を行ったASVとの比較で,血中BNPや尿中カテコラミンをより低下させることや,CPAPとの比較で良好な治療コンプライアンスを呈し,6か月後の左室駆出率やQOL,治療コンプライアンスをより改善させるなどの効果が報告されている.我が国においてもCPAPとASVを比較した多施設前向き無作為化試験で,ASV群では治療コンプライアンスがより良好で,3か月後の左室駆出率,血中BNP,6 分間歩行距離,QOLがより改善するなどの結果が得られた.しかしながらASVの心不全患者における長期予後改善の効果を検討する大規模研究が計画されている.
現在のところ,我が国ではbi-level PAP,ASVともに健康保険適用の明確な基準はなく,臨床での使用に関してはCPAPと比べ費用もかかることから, 現状ではCPAPのタイトレーションを行い,前述の“non-responder”またはCPAPに対して忍容性がない場合に検討する治療法として妥当であると考えられる.
表24 CSR-CSAに対するその他の陽圧治療-1(Bi-level PAP)
表25 CSR-CSAに対するその他の陽圧治療-2(ASV)
クラスⅠ
◦CPAPに忍容性がない場合(エビデンスレベルB)
クラスⅡa
◦CSAの改善を目的として(エビデンスレベルB)
◦心機能の改善を目的として(エビデンスレベルB)
クラスⅡb
なし
クラスⅢ
なし
クラスⅠ
◦CPAPに忍容性がない場合(エビデンスレベルA)
クラスⅡa
◦CSAの改善を目的として(エビデンスレベルA)
◦心機能の改善を目的として(エビデンスレベルB)
クラスⅡb
なし
クラスⅢ
なし